that space is now
9年後のファミリア代官山店

この記事はimaが過去にデザインした空間を再訪し、デザインや設計について振り返るレポートです。

第2回は「子どもの可能性をクリエイトする」を企業理念に、ベビー・子ども服を展開する株式会社ファミリアが2016年にオープンした「ファミリア代官山店」。代表取締役社長である岡崎忠彦さんと一緒に、9年の歳月を経た現在の店舗の姿を見ながら、独創的なプランニングが生まれた背景やデザイン秘話などを伺っていきます。

 

※聞き手は企画・編集を担当する私たちHiの永井と古山です。

Vol.2 FAMILIAR DAIKANYAMA 9年後のファミリア代官山店

インテリアデザインで
ファミリアの新たな方向性を示す

——imaはファミリアの店舗を数多く手掛けていますよね。

小林 恭(以下、恭)

そうなんです。「ファミリア代官山店」や「ファミリア広尾店」などの路面店をはじめ、百貨店内の店舗やプリスクールなど、数多くの空間を設計させてもらいました。この春も名古屋に新店がオープン予定です。

小林マナ(以下、マナ)

この代官山店は私たちが初めて設計させてもらったファミリアの店舗で、思い出深いんです。

——代官山店はショールームとしての要素が強くて、ほかの店舗とはコンセプトが違いますよね。ブランドとしても新たな試みだったと想像します。岡崎さんはなぜこの店舗の設計をimaさんに依頼されたのですか?

岡崎忠彦さん(以下、岡崎)

imaさんが好きやから(笑)。やっぱり気が合う人と仕事したい。飲み会で二次会に付き合ってくれるかどうかが基準ですね。

ありがたいですね(笑)。初めて岡崎さんとお会いしたのは、とあるレストラン。偶然居合わせたんですよ。アートディレクターの八木 保さんに師事されて、アメリカのアトリエにいらっしゃったというお話を伺ったので、クリエイティブディレクターだと思い込んでいたのですが、店を出るときに名刺をいただいて、見ると「代表取締役社長」と書いてある。驚きました。

マナ

二次会どころか、五次会くらいまで飲みにいきましたね。お仕事というより一緒に遊んでいた感覚です。岡崎さんが街中でギター片手に歌を歌いながら一緒に歩いたりもしました(笑)。意気投合して、その後鹿児島睦さんの展覧会へ、一緒に台湾にも行きましたね。

もとは僕の師匠の植木莞爾さんがファミリアの店舗を設計されていたこともあって、僕らがしゃしゃりでなくてもいいと思っていたんですが、出会って数年経ったくらいに代官山店の設計のお話をいただいて。

岡崎

僕は単純に、imaさんの作品が好きなんです。imaさんが設計した「LAPUAN KANKURIT」を見るためだけにヘルシンキに行ったほど。

岡崎さんはチャールズ&レイ・イームズやジャン・プルーヴェ、「Artek」などモダニズムの家具がお好きで。僕たちもそれらに影響を受けてデザイナーになったこともあり、感覚的なところが近いと感じています。

——共通言語が多いと。

マナ

というより、私たちが学ばせていただくことのほうが多いです。ファミリアの神戸のオフィスにはデザインや建築の本がずらりと並んでいて!

岡崎さんは幼少期、「Marimekko」に囲まれて育ったと伺いました。ご自身にそういった影響もおありなんですか?

岡崎

家具はハンス J.ウェグナーのデザイン、照明は「Louis Poulsen」でしたね。今も一生懸命、建築を勉強してるし、社員のデザイン教育にも力を入れていて、会社の家具も全部ミッドセンチュリーで揃えています。

やはりそうやって感性が磨かれていくものなんですね……。通常、多店舗展開をするブランドは、インテリアを統一するケースが多いんですが、ファミリアは店舗ごとにカラーリングが違う。岡崎さんはいつも「振り切ってほしい。ファミリアの新しい方向性が見たいんだ」とおっしゃるんです。

岡崎

僕は究極の飽き性やからな(笑)。

マナ

だから、私たちもアップデートしなきゃと思って必死で勉強しています(笑)。

“体験”を配置したら
平面図がファミちゃんに

——では改めて、「ファミリア代官山店」についてお聞きしたいと思います。代官山店は「for the first 1000days」がコンセプトと伺いました。妊娠してから生まれて2歳の誕生日を迎えるまでの約1000日間を、最高なものにするためのサービスや商品、コンテンツを提供していくことを具現化したスペースだと。

岡崎

将来的にECでの買い物がメインになることを見据えて、ただ商品を陳列して販売するだけではない、体験を主軸にしたショールームを作りたいと考えました。オープンした2016年は、ちょうどNHKの朝ドラ「べっぴんさん」が放映された年でした。

「べっぴんさん」は岡崎さんのお祖母さまでファミリアの創業者のひとり、坂野惇子さんがモデルになったお話。話題になりましたね。

岡崎

体験を主軸とした店舗形態はブランドとして初の試みでした。沐浴体験や出産に必要な服や道具の視覚化、食器の質感や機能性の確認、成長記録、お母さんやベビー、子ども向けのワークショップの開催など、赤ちゃんの成長を心と体で感じられる11のエリアを空間に盛り込みたかった。

マナ

デザインプロセスとしては、岡崎さんから提示されたそれらのコンテンツを要件としてインテリアに落とし込む、という流れをとりました。

——通常、imaのデザインプロセスは「コンセプト決め」から始まると思いますが、「ファミリア代官山」ではあらかじめ岡崎さんが要件を提示され、それをコンセプトとしてデザインを組み立てていったと。 

そうです。コンテンツをどう空間に置いていくかを考えるところからスタートしました。最初はシンプルに水平垂直の直線的なラインで平面を構成したのですが、妊婦さんやお子さんがそこを歩くイメージがどうしても思い描けなくて……。でも何度もスタディをくり返して動線の角をとって丸めていったところ、真ん中の大きな柱を中心にぐるっと回遊する動線ができあがり、しっくりきたんです。

マナ

次に動線上にコンテンツを配置していったんです。「あれ、この動線上の両端にふたつ丸を付けたら、クマじゃん! ファミちゃんじゃん!」って。体験コンテンツのエリアをフローリング貼りに、販売エリアの床をグレーにすることで、ゾーニングも整理できました。

そのプロセスを紙芝居形式で岡崎さんにプレゼンしたところ、「面白い」と言ってくださった。

——コンセプトである“体験”を空間に配置していくと、回遊性と円形という形に行き着いたということですね。

マナ

テーマパークのようにコンテンツをひとつずつ巡ってもらいたかったんです。結果的に、とてもファミリアらしいプランになりました。というより、ファミリアじゃなかったら生まれないプランだったと思います。

せっかくなので、店内を回りながらお話しましょう。

エントランス脇の壁面は差し色としてやわらかなイエローに。マグネットで洋服を貼り付ける鉄板のディスプレイ什器は、アイテムが引き立つようさらに淡いトーンに。うしろのディスプレイ什器は2020年に増設したもの

岡崎

エントランスでは、大きなファミちゃんがお客さまを迎えます。ファミリアではアーティストとのコラボレーションも積極的に行っていて、こちらは鹿児島睦さんにファミちゃんのボディにアートを描いてもらいました。

——エントランスに入った瞬間、空間に広がりを感じますね。

マナ

床や天井に用いた円形のモチーフの効果だと思います。曲線は空間に奥行きを与えて、ダイナミックに見せてくれるんです。エントランスの左手が、平面上でファミちゃんの口と鼻にあたる部分です。ここは構造上撤去できない柱を中心に円形のカウンターと陳列什器を造作しました。エントランス側は当初、離乳食を持参したお客さまが、ファミリアの食器やスプーンを使って食事ができるスペースでした。

円形カウンターのエントランス側は、オリジナルの食器やスタイなど食事関連の製品が並ぶ。ガラスの什器には、2023年に発売したファミリアとイイホシユミコさんとコラボレーションした人気の食器が

岡崎

残念ながらパンデミック以降はそれがかなわなくなりましたが、プレママ向けのイベントで使用したり、食器の手触りをゆっくり確認いただける場所として活用しています。

円形カウンターの反対側は、沐浴が体験できるエリアです。水道もあるので、ベビーバスにお湯をはって、体の洗い方から着替えまで体験できます。

上/円形カウンターの反対側は沐浴体験できるエリア。背面の什器には赤ちゃんの肌着やタオル、ガーゼなど沐浴に使用する製品が並ぶ 下/金の卵は、赤ちゃんの成長記録ができる「エッグカメラ」。今後はコンテンツが変わる予定

その隣にある金の卵は、赤ちゃんの成長記録ができる「エッグカメラ」です。

岡崎

上にカメラが付いていて、卵のマットに赤ちゃんを寝かせて撮影ができるんです。ファミリアオリジナルのフレームで画像をデコレーションして、QRコードからダウンロードする仕組みです。こちらは今後、違うコンテンツになる予定です。

——反対側には銀の卵が! ここは?

マナ

銀の卵は、赤ちゃんの大きさや重さを体感できるコーナーです。その隣、ファミちゃんの耳に当たるエリアが「生地の森」。ファミリアは素材づくりにもこだわっているので、お客さまにそのデザインや質感を間近で見て、触れてほしいと、天井から生地をたくさん吊り下げるしくみをデザインしました。

岡崎

今はワークショップやイベント、赤ちゃんの休憩スペースとして使っています。カーペット敷きの床座スペースで、山のようなかたちのソファも相まって子どもたちに人気なんですよ。ここで知り合って仲良くなったというお客さまもいらっしゃいます。

——それは素敵ですね! 図面で見ただけではわかりませんでしたが、実際にこのスペースを体感してみると、ここにとどまってゆっくり過ごしたくなります。

やはりこの“円形”のモチーフが、空間の印象を柔らかくしていると思います。この「生地の森」のソファや中央のカウンターも円形なので、お客さま同士の距離が自然と縮まるんじゃないでしょうか。

岡崎

代官山店は授乳やおむつ替えができるベビールームが充実していることもあり、買い物以外の目的でいらっしゃる方も多いんですよ。待ち合わせ場所として使ってくださったり、親子で一日中ここで過ごしたり。うれしいですよね。

左/ファーストシューズの試着エリアにも曲線のモチーフが。楕円形のミラーのほか、つかまり立ちができるようにバーを設置 右/販売スペースではコーディネートをイメージしやすいように、上にトップス、下にボトムをかけられる回転型什器をデザイン

“北欧”と“モダニズム”を
バランスよくミックスした色と素材

——「ファミリア代官山」のインテリアで使う色は、どのように決めていったんでしょうか?

マナ

ベースはグレーと白、木の色。基本的にファミリアの店舗設計では、商品の背景に色をもってこないようにしています。色を使う場合は、どんな製品も映える色を選びますし、カウンターなど商品が並ばない場所でだけ。ここではイエローやピンクなどの差し色もありますが、商品が際立つように淡い色合いを選びました。

この什器は背面が鉄板になっていて、絵を貼るように磁石で製品を壁に固定することができるんです。出産準備を可視化するコーナーとして、出産前にそろえたいアイテムを壁に並べられるようにしました。赤ちゃんの布団や肌着、スタイなど赤ちゃんが使うものは白がほとんど。だから白が引き立つようグレーにしました。

岡崎

この仕組みは合理的で、手軽に商品を入れ替えられるので、今は季節の商品をディスプレイしています。

背板に鉄板を組み込んだ什器は、赤ちゃんのための白いアイテムも引き立つグレーに

——ニュートラルな色なので、どのアイテムもしっかり色が浮き上がるんですね。

それと什器にはゴールドも使っています。実は「ファミリア代官山店」のテーマのひとつが“北欧”で。具体的にご要望いただいたわけではないのですが、岡崎さんは僕らが手掛けた「Marimekko」や「LAPUAN KANKURIT」の店舗をご存知で、「Artek」の家具もお好きだと聞いていたので、そうした北欧的な要素とファミリアの製品は親和性が高いということが、暗黙の了解だったんです。ゴールドやグレー、白、それと素材でいうとオーク材は、アルヴァ・アアルトが好んで使っていたもので、そこから引用しています。

岡崎

imaさんはゴールドの使い方が本当にうまいなと思います。オーク材のヘリンボーンのフローリングも、小林さんの自邸で見てとても気に入ったので、同じものを使いたいと要望しました。

ハンガーラックや什器の引き手金具はゴールドに。ファミリアの洋服とも親和性が高い“北欧”の要素として用いている

それとファミリアは、ル・コルビュジエのカラーチャートから抽出した色で商品を作っているそうで、僕らもそれに合わせて空間をデザインすることがありますね。ファミリアの軽量ランドセル「air ran.」も、「Herman Miller」のイームズがデザインしたシェルチェアのカラーリングから着想を得ているそうなんです。まさにモダンデザインですよね。

岡崎

ファミリアが創業したのが1950年ということもあり、ミッドセンチュリーは意識しています。コルビュジェのカラーチャートを選んだのは、ファミリアが長く使える普遍的なものづくりを目指しているからです。

色ひとつでも、流行っているからという理由だけで選びたくない。「何でマーケットに合わせんねん、マーケットは作るもんや!」って、いつもスタッフをそそのかして商品開発をしてる(笑)。

「ファミリア代官山店」を外から見る。窓際に並ぶのが、わずか850gの軽量ランドセル「air ran.」。モダンで洗練されたカラーリングが目を引く

——なるほど、ブランドがもつデザイン思想を空間にも落とし込んでいると。

岡崎

imaさんとは、そんなふうにデザインというコミュニケーションを楽しんでる感覚がありますね。僕はコミュニケーションできる人に仕事を任せたいんです。

デザイナーは同志。
可変し、成長する店

——改めて見ると「ファミリア代官山」はオープンして9年目と思えないほどきれいですね。岡崎さんは代官山店にはよくいらっしゃるんですか?

岡崎

東京に来たときは必ず立ち寄って、定点観測してます。どの店舗も毎週、ディスプレイを社内chatで細かくチェックしています。スタッフに嫌がられるくらい(笑)。やっぱり、自分たちが企画した製品がどうお客さまに見られているかが大事やから。それと、什器ひとつ追加するにしても、安いからといって安易に買ったりしないようスタッフにも周知しています。スタッフに意見を聞きつつ、必ずimaさんに相談して空間をアップデートするようにしていますね。

——お話を伺っていると、「ファミリア代官山」は時間の経過とともに空間が変化しているようですね。

岡崎

コロナ禍はどうしても体験の場を提供するのがむずかしかったのと、旗艦店だった銀座本店が2020年にクローズし、その役割を代官山店が引き継ぐことになり、コンテンツを変更したり、売り場を増やしたり、レジを置く商談カウンターを増設したり。臨機応変に変化させてきました。

曲線的な平面って、実は効率良く什器を置けないんです。通常の直線的な家具を置いたら、自然と余白が生まれますから。その余白が功を奏して、結果的に可変に対応する空間ができたんです。壁面に陳列什器を数カ所増設しましたが、違和感も窮屈な印象もありません。

マナ

少しずつ什器が増えて密度が高くなってきたこともあり、空間が育ってきた印象です。2016年にオープンして、体験の場を提供できなくなったパンデミックを経て現在まで、市場やユーザーの嗜好が大きく変化したなかで、「ファミリア代官山店」は少しずつマイナーチェンジして、時代にしっかりと乗っかっている。本当に素晴らしいと思います。

上/2020年、エントランス脇に増設した陳列什器。背板のないデザインなので圧迫感を感じない 下/中央奥、イエローの壁沿いにも陳列什器を増設。違和感なく調和している

 ——常に移り変わる時代に対してどう動くかを大事にされているんですね。長く続けるためには変化が必要だというように。

 

岡崎

僕、“使い込まれたレストラン”が好きなんですよ。だから、使う素材は経年で良くなる本物じゃないとあかんし、作って終わりじゃなく「この次どうする?」を考え続けて、アップデートしていくべき。だって並ぶ製品は変わるし、戦略も変わっていくんやから。アップデートをカルチャーにしたい。社内でも、売れた商品は翌年作ったらあかんっていうルールを作ったほど。

マナ

それは大胆ですね……!

——素敵なお話を伺っているところ恐縮なのですが……、もしも、ここは直したいという点があれば教えていただけないでしょうか。

岡崎

直したいも何も、このプロジェクトは進行中やから。空間を使っていれば当然改善点が見つかることもある。その時はスタッフやimaさんと話して、一緒に良くしていく。それが信頼関係やと思う。施主だからといって偉いわけはない。僕らはチームだから。そういう意味では、美意識を共有できる同志に出会えたのはラッキーなことやなと思う。

ラッキーなのは僕らのほうですよ。ファミリアの変化に長くお付き合いさせてもらえるのは本当にありがたいことだと常々感じています。

マナ

9年経った今もこうして岡崎さんとゆっくりお話ができるのもうれしいです。今日はありがとうございました。

ファミリア代官山店

〒150-0033
東京都渋谷区猿楽町24-7 代官山プラザ2F

TEL.03-3461-2888

営業時間/11:00~19:00 火曜休

https://familiar.co.jp

Profile

岡崎忠彦 Tadahiko Okazaki

株式会社ファミリア代表取締役社長。1969年生まれ。甲南大学経済学部、California College of Arts and Crafts., Industrial Design科卒業 BFA(Bachelor of Fine Arts)。Tamotsu Yagi designでグラフィックデザイナーとして働き、2003年に株式会社ファミリア入社。取締役執行役員などを経て2011年より現職

設計DATA

所在地/東京都渋谷区
工事種別/内装

PHOTO:高木康行

EDIT&TEXT:Hi 永井史威、古山京子

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