この記事はimaが過去にデザインした空間を再訪し、デザインや設計について振り返るレポートです。
初回は2016年に竣工したimaの自邸「INOKASHIRA HOUSE」。自邸を構えたきっかけやプランニングのプロセス、普通は言えない「ここはこうしたかった」まで、作り手であり使い手であるからこそ語ることのできるエピソードを紹介します。
※聞き手は企画・編集を担当する私たちHiの永井と古山です。
Vol.1 INOKASHIRA HOUSE 自邸をもう一度振り返ってみる
二人が考えたこと
「職住一体」と「自然に近い環境」です。
結婚後独立してからは、都心のマンションとオフィスを行き来するような暮らしでした。東日本大震災を機に2013年から保護犬の預かりボランティアを始めたのですが、その頃に職住一体にしたいと考えるようになったんです。打ち合わせした後、犬の散歩のために帰宅して、また夜に会食に出るなんて生活でしたから。そんなとき住んでいたマンションの取り壊しが決まって、本腰を入れて敷地を探しはじめました。
「自然に近い環境」に暮らしたいと考えるようになったのは、マリメッコの海外店舗の設計に携わり、頻繁にフィンランドへ行くようになったのがきっかけです。ヘルシンキは自然が都市の中に入り込んでいて、その距離感がすごく良かったんですよ。
それと旅で訪れたブラジルのリナ・ボ・バルディの自邸が本当に素晴らしくて。窓から手が届くほどの距離に木々があって、そんな環境にも長年憧れていました。それで、井の頭公園に隣接するこの敷地を見つけた。旗竿敷地なのが気になって即決できなかったけど、その3ヵ月後に購入を決めました。
——そういった住環境に対する考えがプランニングに反映されているというわけですね。
はい。まずはこの環境を活かそうと、北側の公園に向けて開くことを前提にプランニングしました。インテリアは改装できますが環境は変えられないので、土地がもつポテンシャルから導き出した普遍的な要件を最初に固めました。
東京都が公園を売ってしまわない限りは北側はずっと公園ですから(笑)。
1階はキッチンを中心に、東側にダイニング兼打ち合わせスペース、西側にオフィス、2階は東側にリビング、中央にバスルーム、西側に個室を配置しました。1階は仕事、2階はプライベートというふうにフロアで振り分けました。生活と仕事の切り分けや動線など機能を突き詰めて、「もうこれしかない」っていうプランを導き出しています。
– それぞれの「好き」が詰まった2階
——では、空間をご案内いただきたいと思います。まずはリビングから。明るくて温かいですね。
リビングには、北側の公園に向かって掃き出し窓、南側にはハイサイドライトを設けました。猫のために熱交換換気システムで気温を一定に保っています。
2階東側にリビングは天井高を確保した開放的な雰囲気。ベランダの手すりがガラスなので公園の緑も存分に享受できる。南側のハイサイドライトには電動式の外付けブラインドを設置
——普段はどう過ごされているのですか?
二人ともここで過ごす時間が長いかな。僕は朝起きて、シャワーを浴びたらここに来て体操する。これデジタルで音が流れるんですけど、ここでね、音楽聴きながら体操してるんですよ。僕たちがデザインした「猫を愛でる家具 medel」に、こうやって足を乗せてアンビエントな曲を聴くっていう。窓から公園を見ながらね。
——(笑)。マナさんは?
私も起きたらまずはリビングに来てネットをチェック。それから犬の散歩へ。夜は仕事を終えてダイニングで夕食を済ませたら、ここで過ごします。スマホで料理のリールを見たり(笑)、ミニキッチンでお酒を作って飲んだり。
——2階の東側は、北が恭さん、南がマナさんのお部屋ですね。
こちらが私の部屋です。造作デスクは使いにくかったので、Artekの半円テーブルを買って、ここで仕事をしたり、本を読んだり
造作収納の裏側はウォークインクローゼットになってて、その上のロフトがベッドルームになってます。
これは今読んでる本で、島根の陶芸家の山本教行さんの「リーチ好き」。
造作収納の中は昔集めてた大事なものなので、猫に壊されないようにガラスケースにしました。ここは、大好きだった私のおじいちゃんのコーナー。アメリカで車を開発していたんです。
そして、こっちが選曲の仕事をするための僕の部屋で「レコ部屋」と呼んでます。時間さえあれば籠もっていますね。公園の景色を見ながらレコードを聴けるのが最高。背面にはレコードとCDを収納する可動棚を造作しました。今は4000枚ずつくらいかな。
以前の住まいではレコードがリビングの壁一面にあったんですが、喧嘩してそれが目に入るたびにイライラして、何度捨てようと思ったことか。「フリスビーみたいに外に投げてやる!」って(笑)。
「それだけはやめてくれ!」なんてね(笑)。
——(笑)。それで互いの自室を持つことにしたと。
はい。面積も同じで、僕の部屋はレコードを保管するために日陰の北側に、マナの部屋は猫が出入りするので日が入る南側に配置しました。
– オンとオフが共存する1階
1階へ移動して、こちらがダイニングです。ダイニングは仕事の打合せ室も兼ねているので、玄関からも直接入れるように動線を確保しました
1階のダイニング兼打合せ室。南北に掃き出し窓を設けて外部にデッキを敷くことで視界に広がりをもたらした。開口部を大きくとる分、東側に耐力壁を設ける必要があったため書籍やモニターをしまう壁面収納を造作
ダイニング兼打合せ室からは井の頭公園の緑が見える。北側で直接日が入らず、人通りもほとんどないため、あえてカーテンを掛けなかった
——南北が掃き出し窓なので、視界が開けて空間が広く感じますね。デッキ敷きで室内外がつながっているようにも見えます。開口部に挟まれた空間って意外と珍しいですよね。
私、道と道に挟まれたガラス張りの空間が好きなんです。抜けがあると空気が淀まないので。
僕は毎朝、仕事前にここで読書をします。気候が良ければテラスに出て。最近は中沢新一さんの本を読んでる。
仕事は10時から19時までで、19時になったら晩ごはんを作ってここで食べます。この部屋には照明のスイッチが二つあって、一つは昼間用の白くて明るい光、もう一つは夜用の照度を落としたオレンジ色の光。19時になったら夜の光に変えて、気持ちもオフに切り替えるようにしています。
ダイニングの隣に配したキッチン。ここは事務所スタッフも使う共用部。緑を見ながら洗い物がしたいと、シンクの前に窓を設けた
——キッチンの東側がオフィスですね。今、スタッフは何名ですか?
4名です。COVID-19以降は週2〜3日でリモートワークにしました。実は最近、ここを改造したんです。勤務体制が変わってスペースが必要なくなったから、スタッフが使っていたテーブルの脚を切ってベンチにして。さらにこの壁の上にキャスター付きの壁を設置したんです。90度回転させるとL字型の壁になるので、ギャラリーとして使えます。
この6月に、ヘルシンキを拠点に活動するアーティストの星佐和子さんの展覧会を企画しました。その間は、ダイニングや2階の個室、テラスで仕事をします。
人が集まるようになればこの空間にもまた変化が生まれるんじゃないかなと思っています。
1階東側のオフィス。床高を一段下げて天井高を確保し、快適に仕事ができるように。右手の鹿児島睦さんの絵が描かれた壁は90度回転できる
– INOKASHIRA HOUSEの場合
——ここからは、自邸の設計プロセスを振り返ってみたいと思うのですが、設計にあたって意識していたことはありますか?
私が意識しているのは「淀みない空間」。この家では、1階が回遊性のあるプランになっているし、ダイニングは南北に開口部を設けることで開放的な空間になっています。
建ぺい率が小さい分、外部に余剰空間が生まれます。すると自然に屋外空間が室内に取り込まれるから、視覚的に広く感じます。わが家は壁が多いはずなのに回遊できたり、視線が拔けたりするおかげで狭さを感じません。
もう一つ意識したのは断熱性です。心地良く過ごすには、実は断熱性が必須だと考えていたんです。もしかすると一番大事にしてたかもしれない。
——意外です。他のメディアで紹介されている記事でも、そこにはあまりフォーカスされていないですよね。断熱性にこだわったのはどんな理由からですか?
私が育ったのが古い日本家屋だったんです。室内なのに“ほぼ外”みたいな気温だったのがトラウマになっていて(笑)。だから、開口部はペアガラスのアルミ樹脂複合サッシにして、断熱材も天井は300㎜、壁は100㎜のグラスウールを充填してかつ、外壁にも薄い断熱材が入っているサイディングを選び断熱性能を高めました。当時の寒冷地仕様の住宅に近い、エネルギー効率が良い家になりました。
リビングの南側は明るさを確保するためにハイサイドライトを設けていますが、その外側にブラインドを設置しました。外側で熱を遮断するから、冬は暖かくて夏は涼しい。夏は冷房をガンガン効かせなくても快適です。
ただ断熱性に注力するあまり、実現できなかったこともある。
というと?
当時、ペアガラスの複合サッシはバリエーションが少なくて。つまり複合サッシにこだわらなければ、開口部のデザインはもっと自由にできたんです。たとえばダイニングとリビングの北側は、大きなガラスを1枚だけにした方が景色がもっと綺麗に見える。開け放つことはほぼないので、出入り口も1箇所でいい。
サッシは特注もできるけど、既製品よりも断熱性能が落ちてしまうから断念しました。
——素材もimaならではの選び方ですね。いい空気感を作っていると感じますが、どんなふうに選んだのでしょう?
基本的な考え方は、色は白とグレー、ナチュラルな木でまとめて、ニュートラルな箱を作るというイメージです。洗練されすぎていない、あえてラフな素材感を入れて、居心地のいい雰囲気を作ろうとしました。たとえば、ドアやキッチンのカラー面材はコンクリート型枠用合板。ジョイフル本田で見つけました。
1階はオフィスだからかっちりしたイメージのグレー、2階は柔らかい雰囲気のイエローに。合板だから今、ちょっと反ってきましたが許容範囲。
壁も一般的にはプラスターボードを貼って下地を整えてからペンキを塗りますが、うちはラーチの構造用合板にペンキを何層にも塗って、テクスチュアをそのまま表しました。少し脂が出てきたかな。
フローリングは耐久性とメンテナンスを重視。犬と猫がいるし、1階は土足で過ごすので、1階のキッチンとダイニングはラッカーで厚く仕上げたオーク材フローリングに。2階も同じくオーク材をヘリンボーン貼りにしてUV塗装で仕上げました。オイル仕上げも味わい深くていいけど、UV塗装の方が猫の吐き跡が残りにくいので。
左/建具にはコンクリート型枠合板を使用。既存の黄色をそのまま用い、工業製品のラフな雰囲気を生かしている 右/壁面はラーチの構造用合板にペンキを塗り、あえて木目を残すことでインテリアにやわらかさを添えた
2階の床はオーク材のヘリンボーン貼りに。浴室の床はリナ・ボ・バルディの自邸からインスピレーションを得てガラスモザイクタイル貼りにした
ディテールも居心地の良さに大きく関わっています。
——なるほど、どういうふうに影響するのでしょう?
例えば、窓枠についてはとことん話し合いました。窓枠って石膏ボードやサッシなど素材同士がぶつかる箇所で、一般的には散り(ちり:部材の取り合いにできる段差)が必要になるのですが、散りが大きいほど野暮ったい雰囲気になってしまうんです。
とはいえ窓枠をなくした納まりは、この家には合わないと感じたんです。緊張感があり過ぎるし、経年変化で割れてくることもありますから。最終的に枠を薄い板にして壁との間に7mmの目地を入れて、同面に仕上げるディテールになりました。2階は壁と同じ白に塗装しましたが、1階はあえて木の色をそのまま残しています。
——なるほど、言われてみると気づくのですが、ただ綺麗というわけでなく、一種の味わいのようなものを持った納まりですね。「神は細部に宿る」という言葉を思い出しました——
この家は隅々までディテールをデザインしているから、その集積によって独特の居心地の良さが生まれているのではないかと思います
ほどよい緊張感をもつやわらかなディテールを意識し、窓枠と壁を同面にすると共に、その間に7mmの目地を設けた
——プランニングから素材選びまで設計プロセスを振り返ってみて、今思うことはありますか? 後悔していることも含めて、あけすけにお願いします(笑)
できあがった家を見て「なんか普通になっちゃった」って思いました(笑)。
——! それはなぜですか?
今まで素晴らしい住宅をたくさん見てきたはずなのにって。思えば、面積が限られていたから、必要な機能をギリギリまで詰め込むのに精一杯。そういう余剰空間を室内に取り入れる余裕がなかった。
僕も本当はダイニングに吹き抜けを作りたかった。吹き抜けのような余剰空間は、機能としては不要でも豊かさを生み出すものなので。でも面積が足りず作ることができませんでした。
——素材選びで後悔していることはありますか?
外壁をサイディングにしましたが、モルタルのような質感のある素材も良かったなぁと。劣化しにくくてメンテナンスフリーなのが長所ではありますが。
当時としてはいい素材を選んだつもりだけど、予算にも限界がありましたしね。外観のデザインも法規上可能な最大面積から形を導き出したけど、もう少しキリっと作りたかったです。
外観といえばもうひとつ。北側に雨樋を付けなかったんです。落ち葉が多いから、詰まらないようにしたかったし、屋根もシャープに見えるかと。でも雨が降ると滝みたいに水が落ちてくるから、デッキがそこだけ傷んじゃって。今からでもつけたいね(笑)。
——正直なお話ですね(笑)。反対に、設計時には予想できなかった良い変化はありますか?
自分たちが設計した空間ってほぼ想定通りに出来上がる。というか、想定外であってはいけないと思っています。でも、そこでの体験や生活の変化は予想できないことがありますね。この家で言えば、環境に目が向いて野鳥に興味をもつようになったとか、散歩で木や花を見て楽しい気持ちになるとか。それは人生で初めての体験だったし、変化といえるかもしれないです。
確かに、家のどこから借景が見えるかは想定していたけど、そういった体験の部分は分からなかったです。
デッキで読書したり選曲したりしてると、友達が散歩で通りがかっておしゃべりしたり。そういうのがすごく楽しいし、こういう環境に住んでいるからこその体験だなと感じます。
——住空間が広がったような体験ですか?
まさにそう。1階は土足だからすぐに外に出られるんですが、朝起きてTシャツの上にスウェット着て公園を散歩しに出たつもりが、いつの間にか近くのレストランまで足を伸ばしてランチを食べたりして。そういう時間をもつようになって心が満たされてきた気がします。
所在地/東京都三鷹市
工事種別/一戸建て 新築
用途地域/第一種低層住居専用地域
構造・規模/木造 地上2階建て
敷地面積/165.97㎡
建築面積/66.24㎡
床面積/1階66.24㎡ 2階66.24㎡ 合計132.48㎡
家族構成/小林 恭、小林マナ、マロン(猫)、いちご(犬)
PHOTO:高木康行
EDIT&TEXT:Hi 永井史威、古山京子
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——お二人はプロジェクトの最初にコンセプトを立てるということですが、自邸を建てる時のコンセプトはどういうものだったのでしょう??