コンセプトとはクライアントの“THE”

建築家やインテリアデザイナーのなかにはひと目で「この人が設計した」とわかるような作家性をもった人もいますが、imaはそうではありません。彼らのデザインは一言でいうと多種多様。アウトプットの幅の広さこそが魅力です。でも、それがかえってimaという存在をわかりづらくしているかもしれません。

一方、あらためて彼らが手掛けてきた空間を眺めてみると、そこにはimaらしい何かを感じとることができます。多彩なデザインの中に個性が宿っているのです。この連載ではimaの二人とデザインについて話し「imaらしさ」やその源泉を探り、彼らの個性に迫りたいと思います。

 

第1回は、imaが最も大切にしていると語る「コンセプトのデザイン」についてお話しします。

 

※聞き手は企画・編集を担当する私たちHiの永井と古山です。

1 コンセプトとはクライアントの“THE”

——imaとデザインについてお話する「imaのデザインのはなし」。この企画では、これまでimaが手掛けたデザインや影響を受けた空間やモノ、人などデザインの雑多な話を通じて、imaらしいデザインがどうできあがるのかを探りたいと思っています。よろしくお願いいたします。

ima

よろしくお願いします。

——まずは、普段デザインをどう進められているかお伺いしたいと思います。

小林マナ(以下、マナ)

私たちがまず最初にするのはコンセプトづくりですね。コンセプトはデザインプロセスの核となる部分。だから基本的には、店舗設計も住宅設計もまずコンセプトづくりから始めます。

——WEBサイトのフィロソフィーのページには「明快なコンセプトを作り、それをデザインします。」と書かれています。コンセプトを大切にされているのだと思いますが、そもそもコンセプトとは何でしょう?

マナ

コンセプトは、お店や住み手の“THE”。つまりクライアントの一番の特徴と捉えています。特に店舗の場合、お客さんにブランドや製品を知ってもらい、店舗を通じて特徴を伝えなければならないので重要です。

小林 恭(以下、恭)

住宅の場合、オーナーさんにその空間が似合っていて、必要な機能が満たされていれば、コンセプトがなくてもいい。でも店舗デザインの場合、コンセプトは必須だと私たちは考えています。

マナ

例を挙げると、京都の「一保堂茶舗」だと「日本茶」。フィンランドのテキスタイルブランド「ラプアンカンクリ」の場合は「ラプアの織り手たち」というその名が示すように「織り」が特徴です。

ブランドの特徴が一見ネガティブに見えることもあるのですが、視点を変えてみるとポジティブに変わることもあり、それを引き出すのも僕たちの仕事だと思っています。

たとえば、イタリアのレザーブランドの「イルビゾンテ」は、ヌメ革の財布やバッグがブランドのアイコンです。ヌメ革は経年変化が魅力ですよね。それは今でこそ受け入れられていることですが、私たちが店舗設計にかかわり始めた1999年頃は、そういった価値観がまだまだ浸透しておらず、ブランドとしても気にしていたようです。そこで、無垢の木や古材など経年変化の美しい素材をふんだんに取り入れた空間をデザインすることで、ブランドの個性を伝えました。

「IL BISONTE LUCUA OSAKA」では、経年変化を楽しめる杉材の古材や黒皮鉄、亜鉛メッキのスチール、モルタルなどを使い、使うほどに味わいのある質感に変わり、使う人になじむブランドのイメージを表現した Photo by LOOK

——なるほど、経年変化という特徴をポジティブに捉えてコンセプトにしたということですね。imaがコンセプトをどう捉えているかはわかったのですが、なぜコンセプトが大切なのでしょう?

コンセプトはデザインの道しるべになります。例えば前述の「一保堂茶舗」の伊勢丹新宿店では「日本茶」というコンセプトを元に、抹茶色とほうじ茶色のガラスを散りばめたテラゾーで什器をデザインしたり、フォルムも段々の茶畑をイメージしたり。

「一保堂茶舗 伊勢丹新宿店」では、段々の茶畑をイメージし、抹茶やほうじ茶の色をイメージしたガラスを散りばめたテラゾーを特注。お茶というモチーフを用いて五感に訴えるデザインに Photo by Nacasa&Partners Inc.

マナ

「ラプアンカンクリ」のフィンランドにあるアウトレットショップでは、「織り」をヒントに、カットした合板を交差させて生地のようなカウンターとパーティションをアイキャッチとして配しています。

クライアントの個性がデザインにそのまま現れてきます。

フィンランドの「LAPUAN KANKURIT Outlet shop」では「織り」をモチーフとした什器をデザイン。木を多用した温かみある空間も、ブランドのイメージに合致する

マナ

個性が見えないお店は、誰かに真似されたり、どこかの真似のようになってしまったりする。でも、個性を強調すればオリジナルなデザインが生まれてシンプルにお店を覚えてもらいやすくなるんです。

——作家性が強い空間は、ブランドよりも作り手の個性が押し出されているように感じますが、imaがデザインする空間はその反対ですね。

マナ

逆にコンセプトがないとアウトプットに迷いが出るし、表層的なものばかり追いかけてしまって、デザインに説得力がなくなるんです。

2018年に子ども服ブランドの「ファミリア」が運営する認可外保育園「ファミリア プリスクール 神宮前」を設計させてもらったのですが、依頼をいただいたときに要件として提示されていたのは居室の種類などの機能のみでした。それまでファミリアの店舗を何度もデザインさせてもらっていたので、自然素材を使いながら、パターンを象徴的に用いつつ、年齢ごとに色分けして……とイメージを描くことはできたのですが、どこかしっくりこない。

そんななか「核がないから、デザインが決まらないのでは?」と気づいて、改めて「ファミリア」が作るプリスクールがどんなものか、立ち返って考えたんです。

「ファミリア プリスクール 神宮前」では、インテリアデザインとアートディレクションを担当。教室は年齢ごとに、モンテッソーリ教育の理念から導き出した幾何学のモチーフや自然から想起した色彩などを用いて構成した。フローリングに描いた図形は染色により木目を生かし、温かな雰囲気に Photo by Nacasa & Partners Inc.

マナ 

「ファミリア プリスクール」は、ドイツのモンテッソーリ教育とイタリアのレッジョ・エミリア教育を軸にした独自の教育方針「ファミリアメソッド」を実践しています。モンテッソーリ教育では幾何図形を用いたさまざまな教育を行っていることを知り、教育で大事にしている自然から想起した色彩と幾何学をモチーフとして取り入れました。

水色の丸は「水の部屋」、オレンジの四角は「土の部屋」などと、色と形を整えて行きました。

——なるほど、コンセプトがデザインの拠りどころなんですね。同じブランドが複数店舗展開するケースもあると思います。そういう場合、コンセプトはどう作られるのでしょう?

例えば「場所」を掛け合わせることがあります。「イルビゾンテ」の京都ポルタ店では、ヌメ革の暖簾をかけた特徴的なファサードをデザインしました。京都の店舗としては、三条と四条に継ぐ3店舗目でしたので、違うアプローチがしたかったんですね。京都ポルタは京都駅に直結する地下街で、暖簾がかかった飲食店が並んでいる。同じように、エントランスにレザーの暖簾をかけることで、気軽に立ち寄ってもらえるのではないかと考えました。

「イルビゾンテ」の店舗はこれまでたくさん設計させてもらいましたが、ここ以外には生まれないデザインだと思っています。

「イルビゾンテ 京都ルクア店」のファサードは、ヌメ革の暖簾がお客様を迎える。周囲の飲食店のように気軽に足を踏み入れてもらうための装置であると同時に、賑やかな通路との結界の役割ももつ Photo by LOOK

——経年変化というブランドの個性に、場所というコンテクストが加わることで、この店舗しか持ち得ないデザインに落とし込まれたと。

マナ

そうなんです。場所性をそのまま反映させることもあれば、対比させてコンセプトにすることもあります。たとえば、カプセルホテルの「ナインアワーズウーマン新宿」は、ナイトスポットが密集する新宿二丁目に立っている。街の喧騒とは真逆の居心地の良さを追求しました。

宿泊者がリラックスでき、また訪れたいと感じられるように、アースカラーやナチュラルな雰囲気の素材で構成しています。

「ナインアワーズウーマン新宿」の最上階にあるラウンジは連続するボールト型の天井が窓の外に見えるビル群や空を切り取り、非日常を演出する。落ち着きのある温かいカラーリングがリラックスを促す Photo by Nacasa&Partners Inc.

——クライアントの個性を導き出し、それを空間に落とし込むからオリジナルなデザインができるんですね。ちなみに、新規事業のようにブランドやお店のコンセプトが明確でない場合はどうしているんですか?

マナ

そういう場合はクライアントに考えてもらいます。でも、自分を客観視するのは難しいので、一緒に話したり、作りたい空間や好きなものなどのイメージ写真をたくさん集めてもらって、そのどこに惹かれているかをヒアリングしたり、好きなお店に連れていってもらったり。小さなヒントを集めていくんです。

さらに要件を丁寧に聞いて、それを踏まえてコンセプトを固めて、自分たちができる最も良いアウトプットを探っていきます。決して複雑な手法ではないんです。

マナ

実は、私たち自身は大きな力を使っていないんですよね。ブランドや場所、お店で扱う製品を理解しようと心を開いて入っていくと、おのずと見えてくるものがあるんです。

——おぉ、まるで木の中に仏の姿を見出す、仏師のような……

(笑)

マナ

相手の力を利用してコンセプトを導き、デザインを生み出す。たとえるなら合気道のようなものかもしれませんね(笑)

(つづきます)

PHOTO:高木康行(ポートレート)

EDIT&TEXT: Hi 永井史威、古山京子

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